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現地一日目三月一八日(土) 小樽〜網走


決行!おおぞら返し


二一時三六分釧路着、二三時〇〇分発の「おおぞら14号」まで時間があるので 、幣舞橋まで散歩をす る。幣舞橋までの大通りは深夜のせいか人どおりも少なく、時々酔っ払いの奇 声が聞こえるのみであ る。通りに雪はすでになく、歩きやすい。

幣舞橋の上で、しばし旧釧路川の畔に建つMOO・EGGを眺める。

「明日は納沙布岬だ。」

しばしの間、物思いにふけていた……。

さて、今夜の宿の出発が近くなったので駅に戻ることにする。ところで、今夜 は「おおぞら」返しを 決行する。「返し」とは、周遊券の旅などでは、よく宿代をケチって夜行列車 を宿代わりにしたりす るが、夜行列車では遥か遠くの地まで運ばれてしまうので、同じ土地を二日が かりで観光するのには 向いていない。ところが、たいていの夜行列車は上り列車と下り列車があり、 必ず深夜にどこかです れ違っているはずである。(「おおぞら13、14号」の場合も、二時半頃に新得 ですれ違っている。) そこで、深夜の駅で反対側から来た列車に乗り換えて、朝には前日の夜に出発 した駅に戻ってくると いうのが「返し」である。しかし、寝過ごしたら、当然、対向列車は行ってし まっている訳だし、深 夜なので他の列車も走っていないとあらば、遥か遠くの終着駅まで行くか、僻 地の駅で駅寝して始発 を待つしかない。したがって、「返し」の決行には何よりも気力と、睡眠不足 でも行動できる体力が 必要である。

釧路駅に戻ると改札口の前にはすでに長い列が出来ている。改札口上のLED 掲示板と自動放送が自 由席は一両と案内しているが、今日は所定の六両に、自由席禁煙車を増結して いるとの肉声放送の案 内があった。所定では自由席は一両なので、列を見たときには焦ったが、二両 、しかも禁煙車付と聞 いて安心した。

北海道の駅では、昔から列車別改札方式をとっており、発車時刻が近付かない と、例え列車が入線し ていても、ホームに立ち入ることはできない。札幌駅でさえ常時改札になった のはつい最近のことで (旭川は形式的には列車別だが実際は常時改札状態になっている…。)、札幌 以外の北海道の駅は全 てこの方式と言っても過言ではないようだ(当然、無人駅を除く)。そこで、 改札口に列が出来てい ても、他の列車から乗り換えの客はホームで待つ事が出来るので、改札が始ま って列車に乗ると、既 に席が占領されているといった悲劇も起きうるようだ。そのせいか、この制度 に関しては、賛否両論 のようである。北海道の冬は寒いので、待合室で列車を待つ習慣があるのと、 無用の者のホームへの 立ち入りを制限して、事故を防ぐ目的もあるようだが、僕としては、改札内に 入るのは皆、同じ時間 だし、その間、暖かい待合室で待つことが出来るので、悪くはないと思ってい る。

さて、いざ改札がはじまると、改札口に並んでいた人のほとんどは、指定席と 寝台に向かってしまい、 自由席はガラガラだった。編成全体を見ても、さほど混んでいる風でも無いの で0番台車を編成に加 えている関係で増結しているのだろう。とにかく、禁煙車が増結されたのはあ りがたいことだ。

結局自由席は、座席が半分も埋まらない程度の乗りで「おおぞら14号」は出発 してしまった。下りの
「おおぞら13号」に乗り継ぐ新得には二時一九分着。三時間ほど時間があるの で寝過ごしに備えて目 覚まし時計をセットし、この程度の乗車率では途中駅から乗ってくるとしても 、たかが知れているだ ろうから、座席を向かい合わせにして、早々に寝ることにした。ところが、乗 った車両が中間電源車 のキハ184型なので発電用エンジンが絶えず唸りを上げている上、駆動用エン ジンの真上に座ってし まったらしく、しかもどうも調子が悪いのか、元々こんなエンジンなのか、異 常に高い音と振動が加 わり、なかなか寝付けなかった。どうもこの辺の快適性は客車や電車に軍配が あがるようだ。

旧釧路川にかかる幣舞橋のたもとに立つMooEggは
夜になるとライトアップされいいムードを醸し出していた

一瞬の折り返し劇


 二時、目が覚める。何とか無事に起床できたようだ。後は再び眠ら ないように、顔を洗う
などして新得到着に備える。 新得には二時一九分着(発車は二時二八分)、根室本線は単線だから新得では 上下列車の交換の隙に 乗り換えることになる。下りの「おおぞら13号」は二時二六分に到着して三一 分に発車するのだから 一二分の持ち時間がある。しかし、下り13号から上り14号に乗移る場合は持ち 時間が2分しかないの で注意しなければならない。(新得では跨線橋を渡らなければならない構内配 線でしかも跨線橋はい ちばん札幌寄りなので更に要注意) ドアが開くと同時にダッシュで跨線橋を 渡る。駅スタンプ、飲 料補給、編成写真と一二分はあまりにも短い。振り向くと、誰もいない。今夜 「おおぞら」返しを決 行するのは僕だけらしい。一旦改札を抜け、駅スタンプを押印し、自販機で明 日の清涼飲料を購入、 再び駅員に周遊券を見せてホームに入る。たった一人の乗客のため(しかも降 りる訳でもない、けっ たいな乗客のために)に泊り込む駅員の仕事も大変だ。ホームに出ると間もな く、札幌からの下り 「おおぞら13号」が到着した。早速、上下列車の並んだだところを撮ろうと三 脚を立てる。ファイン ダーを覗くと、停車位置の関係で14号が構図に入らない。

「……。14号の発車まで待つしかない。」

二八分!ファインダーに14号のヘッドライトの明かりが走る。並んだところで 電子レリーズのシャッ ターボタンを一撃!。

「車内へ急げ!。」

……といっても時間は三分あるのだった。どうも緊張のあまりに焦っていけな い。

こちらも増結の自由席禁煙車の6号車に入ろうとすると、ホームに降りていた 車掌に呼び止められた。

「ここから乗るの?。あぁ周遊券ね。ご苦労さん。」

「はぁ……。」

車掌は切符を拝見することもなく行ってしまった。 車内に入ると、E
氏は無事、乗っていた。(これがY氏だと乗っていない 確率が大きいので相手 が江原氏で良かったと痛感した。)座ろうとすると、江原氏の向かいにオッサ ンが座っていて窮屈そ うだ。

「まぁ可哀そうに、混んでたのか……。ご愁傷さま。」

僕は誰か座っていたのか、4席向かい合わせの空席を見付け、そこに落ち着い た。

四時半、予定よりも早く目が覚めてしまった。江原氏は向かいのオッサンと共 にまだ寝ているようだ。

「ん……。このオッサン、どこかで見たような体格だな。」

窓のキセに載っている空缶を見ると「大黒茶」。こんなのが好きそうな人は… …。おそるおそる近づ

いて確認する。

「げっ!。Yさん!。」

思わず吹き出してしまった。よくよく聞いてみると、例の海峡線の架線事故の 影響で予定を変更して いるとのことで、明日の深名線の朱鞠内まで同行するようだ。 昨日飲み損ねた道内限定のサッポロ・クラシックの缶を開け、吉野氏の寝顔を 見ていると旧友のくだ らない文句が浮かんで来た。

旅は道連れ世は情け

足は靴擦れ世はお酒

酒を飲むべしオッペケペー

岩手智之

とんだ飛び入り参加者を加えて、凸凹列車は、まだあけやらぬ根室本線を東へ とひた走っていた。

深夜の新得駅で交換する「おおぞら」13号(左)と同じく12号(右)

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