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現地二日目三月一九日(土) 釧路〜納沙布岬



花咲線は鹿だらけ


釧路には六時ちょうどの到着。根室行の快速「はなさき」に乗り換える。快 速「はなさき」は「お おぞら13号」の着いたホームと同じ一番線の根室寄りに到着とのことで、橋を 渡らずに乗り換えられ るので有り難い。ただし、待ち合わせ時間は七分なので朝飯の仕入れなどで乗 り遅れないよう気をつ けたい。確認しなかったが、早朝なので売店が開いているかどうか怪しいので 、前日の夜に仕入れて おくのが賢明だろう。

E氏と一緒ならボックス席も空いていたが、8mmビデオで花咲線(はなさ きせん)の前面展望ビ デオを撮るY氏に付き合うことにし、前部のデッキに陣取る。

六時七分、快速「はなさき」は釧路駅を発車した。先に「花咲線」と述べた が、この線の正式名称 は「根室本線」で、「東北本線」の上野〜宇都宮〜黒磯間を別名「宇都宮線」 と呼び、むしろ地元で は「宇都宮線」のほうが通りがいいのと同じようなものである。根室本線は滝 川から新得、帯広、釧 路を経由して根室までの線だが、特急が頻繁に走る新得〜釧路間に対し、末端 部の滝川〜新得間およ び釧路〜根室間は「本線」とは名ばかりの特急はおろか急行さえも走らないロ ーカル線である。(急 行が走っていた古き良き時代もあったのに……涙。)特に釧路〜根室間は営業 も支社から切り離され 「花咲線運輸営業所」が経営の権限を握っている。根室本線は滝川〜新得間、 新得〜釧路間および釧 路〜根室間では違う路線と考えたほうが良いだろう。

列車は東釧路で釧網本線を分け、なだらかな丘陵を登ってゆく。キハ54はワ ンマンタイプなので、 前面展望は思いのままだ。吉野氏のビデオカメラはデッキ上に三脚で固定され 、絶えず前面展望を記 録している。彼は前面展望ビデオの収拾が趣味らしく、高校の放送部時代に、放送セ ンター内の彼のビデオラックの中に東北本線の前面展望ビデオが束になって( 当時はVHS−Cテー プだった)置いてあったのに度胆を抜かれたことがあった。鉄道趣味の楽しみ 方は人それぞれだが、 一分一秒も逃さない彼の記録ぶりには感服するものがある。


厚岸の湿原付近を行く。(左)
カメラをまわすY氏の目前を落石岬がかすめる(右)


暖房のせいかカメラの向いている助士席側の窓が曇ってきた。何やら吉野氏 の表情が険しくなって きた。運転席にはどこまで行くのか添乗の運転士が乗っており、さっきから「 花咲線はいい」だの、 「他の線は嫌」だのと、どうやら異動の話をしている。(そういえば今は年度末だったっけ)吉野氏 が恐る恐る添乗の運転士に助士席側前面ガラスの曇り止めヒーターを入れてく れないかと頼むと、快 く承諾してくれ、しかも、曇った前面ガラスをタオルで拭いてくれた。何とも 都会では考えられない 人情があふれている。この後も運転室にカメラ置いて撮って良いと言ってくれ たり、厚床では標津線 の廃線跡を教えてくれたりと凄くサービスが良い。北海道は運転士も車掌もい い人ばかり(例外もいるのだが)だ涙。

時刻表を取りに、席に戻っていた時、突然、激しい衝撃と共に非常ブレーキ がかかった。何事かと、


このあたり鹿が多く何度か非常ブレーキを扱った。

デッキに戻ると、急に鹿が線路敷内に飛び出したとのこと。なるほど1 匹2匹……5匹ぐらい の鹿が悠々と線路を横断している。痺れを切らした運転士が長く数回警笛を鳴 らすが、鹿は驚いて逃 げようとはするが、群れの仲間が対岸にいるためか線路の横断を止めようとし ない。結局この日は、 鹿で、5回ぐらい非常ブレーキを扱った。 根室には(多分?)定刻に着いた 。鹿のせいで何回か止 まったが、キハ54の鋭い足で走り切ったのか、ダイヤに余裕があるのか、それ ほど遅れなかったよう だ。根室駅は島式ホーム側が廃線になっており、駅本屋側の片面ホームがある のみである。留置する 車両は片面ホームの先に縦列駐車?されておりポイントすら無い(かったよう に記憶している)。廃 止になったホームや留置線の跡が、かつて栄華を物語っているが、本線の終着 駅としてはいささか寂 しいたたずまいである。


根室駅は幹線の終着駅にしては淋しいたたずまいだった。(左)
根室からは名鉄系の根室交通バスで納沙布岬まで行く。(右)

 

北方領土は目の前だった


 根室からはバスで納沙布岬に向かうのだが、ここでY氏の珍発言があった 。三人なら回数券で乗っ たほうが百円くらい安くなると言ってバスの切符売場に向かった。「ここまで 来て百円までケチるの か」と思ったが、彼らしい発想なので成行きを見守ることにした。しかし結果 はバツ。券面に一〇〇 円とか五〇円とか数字が印刷されている「金券式」ではなく鉄道のように乗車 区間が印字されている

「十一枚綴り」だった。これでは6人いないと安くならない。そんな事をして いるうちにバスが来た。

バスは根室市街を抜け、だだっ広い原野の中の一本道を走りだした。時折通 過する集落以外は、な
〜んにもない。

「どえらい処に来てしまったな。」

と三氏揃って、つぶやく。事実それが率直な感想だった。ここでマイカーなら 好きな曲を聴きながら 制限速度などおかまいなしに、思いっきり飛ばしたいところだが、このバスと きたらせいぜい六十キ ロといったところ。トップギアに入っているのだろうけれど、エンジンの唸り に反してスピードはな かなか上がらない。辺りの景色のせいもあるが、このおろバスが「果たして家 に帰れるのか」との不 安をつのらせる。

一時間弱で納沙布岬に到着した。バス停からしばらく歩くとはっと息をのむ 光景に出会った。水晶 島(歯舞諸島の一部)が目の前わずか二、三`のところに蜃気楼のように浮か んでいるのである。数 百メートル先には境界を示すロシアの傾いた真っ黒い不気味な灯台が建ってお り、ロシアの灰色の監 視船の姿も見える。こうしているとさすがに北方領土問く身近なものに感じら れる。

突端に建つ北方領土問題関係の資料館の「望郷の家」を見た後、食事をとろ うとレストランに立ち 寄ると、すさまじい光景に出会った。ガラスというガラスは割れ、壁は剥がれ 落ち、建物全体も傾い ているようだ。昨年の北海道東方沖地震で半壊したものとしか考えられない。 (Y氏曰くNHK ニュースに出ていたカニ料理屋)。阪神大震災の陰で、すっかり忘れ去られて しまい、復興の援助が 来ているのか不安だ。この先も損傷を受けた建物を多数見たが、阪神大震災の 陰で北海道東部や八戸 の人たちの事も忘れないでほしいものだ。

さて昼食は土産屋に併設の食堂でとることにする。E氏はイクラ丼(一、 〇〇〇円)、貧乏旅行 者の僕は蟹カレー(七五〇円)を(超経済主義のY氏は持参の缶詰!)食べ る。蟹カレーも本物の 蟹が入っていておいしかったが、江原氏のイクラ丼が凄い。ご飯が見えないほ どイクラが乗っていて、 そのボリュームにE氏、御満足の様子。


納沙布岬にて、水平線近くにうっすらと見える
白いものは北方領土の水晶島

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