軌道線の廃線跡を歩く
東関屋に着いた後は廃止された軌道線に添って新潟市役所のあたりまで歩いてみる。序章で述べた通り、軌道線２．６キロ間は１９９２年に廃止。煉瓦造りの洋館だった、かつての始発ターミナルだった白山前駅は取り壊されると聞いていた。そんな軌道線の跡はおよび白山前駅付近がどうなっているのか確かめるのが目的だ。
東関屋駅付近はすっかり再開発が進んでしまい、車庫がある現在駅から先の痕跡ははっきりとしていない。東関屋駅の本屋寄りの線路は、真新しいブロックの車止めが設置されているので、軌道線廃止時にここで切られたことが良く分かる。そしてその先はバス車庫（おそらく新設なのだろう）となってしまっている。
バス車庫を抜け、駅ホームからの線路の延長線上に歩いていくとにわかに建設中や新築の家が多くなった。おそらくかつての線路敷は売りに出され住宅になっているのであろう。さらに歩きＪＲの関屋駅からの通りがぶつかる交差点の先で軌道線は道路に出ていたはずなのだが、ここの痕跡は良く分かった。道路が不自然にカーブしており、電車が出てきていたであろう所にはゼブラのマーキングがしてあった。
ここから先は途中で交差するが、越後線に沿って市役所方面に向かう。道路は拡幅されて片側２車線になっているが、道路中央のアスファルトがこんもり盛り上がっているのが分かり、かつてここに軌道があった事が分かる。間もなく道は対面通行の煩雑な道となり、越後線と交差する。
越後線と交差した後は狭い道の真ん中を電車が走っていた区間。イメージとしては江ノ電の路面区間に似ているが、今でこそ軌道が撤去されて、やや余裕があるが、電車と自動車が輻輳して走ったらいかにも狭い通りである。
この越後線をくぐってからがまた長かった。ＪＲの白山駅を越えてもまだ市役所は見えてこない。交通量が多い上に狭い道なので路上駐車の車があったりすると車道を歩かねばならず、非常に危ない。全く電車が走っていた時はいかに煩雑だったかを肌で感じる事ができる。面影の無い白山前駅跡
白山駅前を過ぎてから歩くこと１０分。近代的な建物の新潟市役所と白山神社に挟まれた公園に出た。ここがかつての白山前駅があった所のはずである。ＪＲの白山駅から１０分くらい、東関屋の駅からは３０分はかかったであろうか、この間停留所は設置されておらず、道の狭さと振動の激しさもあって地元から廃止の要望が出されたと聞いていたが、何となく納得できるものもあった。まあ、停留所があってもう少し道が広ければ状況は違っていたかもしれないが、歴史に「もし」はない。
さて、ここが白山前駅だったはずなのだが、様相はすっかり一変していた。電車の形を模したと言われる煉瓦造りの洋館の駅舎は跡形もなくなっていた。もうひとつ、ここが白山前駅だった事を分かりにくくしている要因に大幅に道路が改良されている事が挙げられるだろう。
案内板ではここの公園に白山前駅があったとされているが、厳密には違う。僕はかつての白山前駅に来たことはないのでいかんとも言い難いのだが、写真で見る限り、かつての白山前駅は駅舎を囲むようなロータリーになっていたはずである。しかし現在の駅跡とされる公園は白山神社の塀に寄せられて作られている。ここはかつて道路だったはずである。公園をかつての駅舎上に作ってしまっては、ロータリー状になってしまい、交通に不便なためか、駅舎を取り壊しその個所は通常のT字型の交差点となっている。駅舎が取り壊された最大の要因は道路の改良だったのだろうか。誠に残念な話である。
残らぬ遺構
1992年に軌道線が廃止された年の旅と鉄道誌（鉄道ジャーナル社刊）に地元の少年が寄せた紀行文が掲載されていた。少年は軌道線の乗車記の後に、道路を走る電車を怪訝な顔で見つめる子供を見て、あの子が大きくなる頃には新潟に「路面電車」があった事を誰も覚えていないかもしれないと結んでいた。その言葉を今、思い起こすと非常に感慨深いものに感じる。１９９２年の軌道線の廃止から６年。新潟交通の鉄道線全体が消えてしまう。朝方、電車の中で見た子供たちが大きくなる頃には「路面電車」はおろか新潟に「私鉄」があった事さえ忘れ去られてしまうかもしれない。
軌道線があった事を物語るはずだったレンガ造りの白山前駅は撤去されてしまった。鉄道線の遺構となるあの時代から取り残されたような情緒深い駅舎群や車両はどう残されるのだろうか。東京へと帰る電車を待つ待合室で外を眺めると季節はずれの雨が激しく降っていた。それが、去り行く新潟の鉄道が流す涙のように感じてしまったのは僕だけだったのだろうか。
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路面のゼブラと道の曲がり方から
ここが東関屋から路面区間に
出ていた場所と容易に想像が付く
電車と自動車が共存する
にはあまりにも狭い通り
この近代的な新潟市役所
の前の路上から新潟交通
の電車が発着していた
下は公園にあった案内板
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