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現地六日目三月二三日 札幌−青森


期待の星スーパー北斗に乗る



95%ほとんど寝ていた二度目の函館往復の後、札幌に降り立つと、D番線 にはすでに<スーパー北斗二号>の281系気動車の姿が見える。シェルターに覆われた札幌駅の構 内にも天窓からさんさんと朝日が降り注いでおり、どうやら今日は天気がよくなりそうだ。「今日は 噴火湾がキレイだろうな」と、トラの子の<スーパー北斗二号>を最後にとっておいてよかったと思 った。

D番線に向かうとすでに乗車が始まっていたが、事前に江原氏に聞いたとお り、ガラガラで悠々と、進行方向に向かって左、噴火湾側、窓を長手に使用できしかも後方の席がとれ た。E氏は一両に数名の乗りだったと言っていたが、約三五%、三席に一人程度の乗車だった。

六時四八分<スーパー北斗二号>は札幌を出発した。一斉にエンジンが唸り をあげ、ゆっくり景色が流れだす。一瞬エンジン音が静かになるが、構内のポイントを抜けると低く 力強いビートのエンジン音とともに猛然とダッシュを始めた。一回、二回、三回シフトアップを繰り 返し、一〇〇秒程で最高速に達したものと思われ、うらめしい札幌ビール園の煙突があっという間に 後方へ流れ去った。苗穂の先の有名なカーブにさしかかると緩やかに車体を傾けながら猛然と駆け抜 ける。振子の本領発揮は東室蘭を出てからだろうが、在来の特急でも比較的早く通過しているのでは ないかと思われるカー ブでも若干車体を傾けながら走る。おそらく<スーパー北斗>は減速なしで駆 け抜けているのだろう。

函館本線と分かれ、市街地を抜けると、にわかに暗くなり、雪が舞いだした。 どうも、今日は晴れたり曇ったりらしい。果たして今日の道南の天気はどうなんだろう(失礼)。 千歳の高架を抜け、南千歳を通過する頃になるとどうも雲行きが怪しくなっってきたが、苫小牧を通 過し室蘭本線に入る頃には一変して天気が良くなり、車内にもやわらかい日差しが差し始めた。どう やら千歳付近だけが天気が悪かったようだ。そろそろ<北斗星>とすれ違う頃だと思い、先頭のデッ キに立つとなんと真っ白。先程の雪が固着してしまったらしい。量産編成の貫通扉の窓にはワイパー が装備されているのだが、乗ったのがもとの試作編成で装備されていない。熱線は入っているらしく 周りがうっすらと融け始めてはいるが、「これは熱線で雪が融けるまでかなり時間がかかるな」と思 い席に戻る。(ちなみに最後部は量産型だったが同じく雪が付着しておりワイパーは作動していなか った。)。 席に戻ると、右手の車窓に雪を抱き裾野を長く引く樽前山がブルーの空にきれいに映え て見える。<スーパー北斗二号>はというと長い直線が続き車体を傾けることもなく快調に走ってい るようだ。事前に評判は聞いてはいたが、とても静かだ。若干速度が落ちると、太く短くエンジンが 唸るが、やかましいふうでもなく、最高速に達してエンジンが静かになるとそれこそ物音さえ聞こえ ない特急電車のT車並の静寂が訪れる。穏やかな日差しが車内に満ち、きれいだが単調な景色が続き 、車内はいたって静か。ときおり思い出したかのように低いエンジン音と加給機の回る「ヒューン」と いう音がなぜか心地よく響き、やがてまた静寂が訪れる。その断続の繰り返しが心地よく、いつの間 にか、うとうとし始め てしまった。



突然、排気ブレーキが作動したのか、ドーンという重低音とともにエンジン が高鳴り、車体が震え、 グゥーンといった感じで速度が下がる。はっと目を覚ますと、どうやら東室蘭 に到着したらしい。 東室蘭では降りはすれど乗車はほとんどなく、四席に一人といった具合にな ってしまった。東室蘭で降りるとものと思っていた前の席のビジネスマン二人連れは函館まで行くら しく、ぐっすり寝込んでいる(寝過ごしでなければいいのだが)。再びエンジンが唸りをあげ、東室 蘭を出ると、自動放送 が「次は終点函館です。」と告げる。以前、スーパー<やまびこ一号>に乗っ た時にも感じたが、まだ一駅しか停車していないのに終点とは妙な気分である。

天気はますます良くなったらしく、遠方に見える建設中の室蘭の港湾をまた ぐ吊橋が順光に輝いて いる。東室蘭を出ると噴火湾をぐるっと2/3周するような進路を取る。直線 的に線路が敷けたらどんなに時間が短縮できるものかとも思うがこればかりは自然に逆らえない。以 前は札幌へショートカットする函館本線が特急の黄金ルートだったが、峠越えが連続し、急曲線が多い がために年々削減され、いつのまにか距離は三二キロも長いが、峠越えのない千歳線−室蘭本線経由が メインルートになってしまった。山線は今や普通列車(快速含む)のみしか走らず、しかも存続さえ も危ぶむ声が聞こえる惨憺たる状況に陥っている。しかし、遠い将来、新幹線が距離の短い山側のル ートをとればこの距離の長いルートも衰退してしまうかも知れず、何ともはかないものである。

東室蘭を出るとにわかにカーブが多くなり、<スーパー北斗二号は>車体を 右に左に傾けながら速度を大きく落とすことなくクリアしているようだ。車体の制御状況はすばらし く、381系のような不自然な揺れはほとんど感じられないし、説明されなければ素人には気付かな いかもしれない。最後部の車両に乗っているので、よく注意して観察すると、カーブに突入し車窓に 先頭車が見えると滑らかに傾き始め、カーブをクリアする頃に徐々に振り戻しているのが分かる。寸 分の狂いもなく車体を傾けるタイミングは走行位置と突入するカーブの半径そして速度と遠心力の関 係を車載のコンピュータで計算されており、技術の高さに感心する。

長万部を通過する頃には、前方の駒ケ岳がかなり大きく見えるようになって きた。森を出るといよいよ駒ケ岳越えにかかる、さしもの281系も20‰の勾配 を前にに80キロから 90キロぐらいだろうか、若干のスピードダウンをする。ダウンするといって も、当然、昔のDCのように亀の這うような足取りではなく、また80〜90キロではカーブでほと んど速度を落とすこと もなく、力強くグイグイ登るといった感じで実に頼もしい。

サミットを越え、駒ケ岳が後方に移ると軽い足取りで下りだす。途中大沼越 しに見えた駒ケ岳の美しさにはっとする。

そろそろ下車の準備をすべく、荷物をまとめ始めた。確か大沼付近を通過し たのが9時半ごろだったと記憶しているから、函館には実に15分でついてしまう。平坦地に降り、 直線も多く距離も短いのだから、当然183系<北斗>でも同じような所用時間で走っているようだ が、大沼公園に停車しない分、早くついてしまいそうに感じる。

九時四七分、定刻どおりに函館に到着した。所用二時間五九分、表定速度は 一〇〇.六q/hと一昔前では想像もつかない驚異的なスピードで走りに走った三一八キロであった 。例え一分といえど、三時間をきる走りにはJR北海道の意地のようなものが感じられ、五日間JR 北海道の悲惨なローカ ル線事情を見てきただけに、この<スーパー北斗>の今後の健闘を祈らずにい られない。

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