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現地六日目三月二三日 札幌−青森


要注意温泉

計画では青森から臨時の<津軽>で帰る予定なので、函館を出るのは、お昼の 一二時二八分発の海峡一〇号で大丈夫そうだから、二時間半弱も時間がある。朝六時四八分に札幌を 出たのにこの余裕はうれしい。昼間の函館は初めてで、何をしようかと思ったが、昨日は風呂に入り 損ねたので名物の谷地頭温泉まで行くことにした。

「谷地頭」行きの市電にガタゴト揺られて、終点で下車して

「はて、温泉は何処だろう?。」

一緒に電車を降りた老人に聞くと、

「前を歩いている婆さんも、温泉だろうか らついて行くといい。」

との由。なるほど、確かにお婆さんが歩いている。しかし失礼だがあまりにも 歩くのが遅いので、後 をつけているのかと変な目で見られないよう(事実そうなのだが)、地図を見 るふりなどしてなんとか温泉にたどり着いた。そして券を購入して脱衣所に入ってビックリ!。

「な、なんと爺さんばかりだ!。」

脱衣所にいるだけでも五、六〇人、平日の午前中なので予想はしてはいたもの の、この数倍は浴室にいるようで、こりゃすごい。

「こりゃ偉い所に来てしまった。」

そう思いながら服を脱いで浴室に入ると、

「な、なんと混んでいることか。」

広い浴室にずらりと並んでいるはずの洗い場の蛇口は空きが無いほどびっしり 背中が並んでおり、浴 槽内も淵に沿ってびっしり、これは壮観に値する(ちょっとおおげさか)。な んとか、空きの蛇口を 見付け、肩身の狭い思いをしながら体を洗い浴槽内に入る。真っ茶色な湯はいかにも効能がありそうで、ゆっくり浸かることにした。し かし、辺りを見回すと九九、九%以上が六〇才以上と見える。つまり若い者は僕ひとりということ。 同業者は確認できなかっ た。これが夜となると状況は変わってくるのだろうが、このように年配のかたで溢れている状況が性に合わない方は行く日と時間に気をつけたほうがいいかもしれない。

さて、谷地頭温泉ではとんだ目にあったが、駅に戻り<海峡>に乗り込むこ とにする。駅についてホームに入ると<海峡10号>はすでに入線しており、機関車の付け替え作業 を行なっているところだった。前から一通り編成を眺め、写真を撮ったりしていると、間もなく発車 時刻となった。



美ケ原高原美術館のアモーレの鐘のような発車ベルに見送られて<海峡一〇 号>は発車した。最近は短編成が目立つ<海峡>だが、今日も50系客車4両だった。乗車率は80 %といったところで、ほとんどが青森の人らしく津軽弁が飛びかっている。あと何処から湧いてきた のか数人の同業者も確認できた。しかし改めて考えてみると、今回の旅で津軽弁を聞いたのはこれが 初めてのようだ。行きは新潟からフェリーで直接渡道したので、青森を通っていなかった。黄金ルー ト経由なら<しらかみ3号>のなかでいやというほど聞いているはずなのに妙な気分だ。

五稜郭で函館本線と別れ、七重浜で気の毒なくらい空いている<はつかり1 号>と交換すると、何 やら後でもめている声がする。

「車掌さんこの列車上磯止まらないの?」

「えっ。これ快速ですし、次は木古内まで止まりませんよ。」

「えっ、木古内までっ!」



どうやら函館発一二時三六分発の132Dと間違えたらしい。しかしよく調 べてみると<海峡10>号の木古内着は一三時二六分、木古内で函館行きの各駅停車は125Dの一 四時五五分までなく、上磯到着は一五時四二分!。車掌も気の毒そうに誤乗の手続きをとっていた。 上磯に運転停車で停車したときなど、閉まっているドアの向こうにある改札口にむかって

「出してくれー」

とぼやいていた。132Dに間違わずに乗っていれば一二時五九分に着いたの に、何ともご愁傷さまとしか言いようがない。今日の津軽海峡は実にスッキリと晴れ渡っており、穏やかな海が日を浴びて きらきら輝き、対岸に函館山と下北半島のコンビも望める。今日は樽前山と噴火湾、駒ケ岳に津軽海 峡と実にたくさんの奇麗な景色が望めて大満足だ。車内にも穏やかな日差しが差し込みうっかりする と眠ってしまいそうだ。それなのに後ろの誤乗の男性は

「ちくしょう!。ちくしょう!。」

と何度もぼやいており、何もしないで木古内で折り返すのがよほど悔しいのか 車掌に「木古内って映

画館ないの」(当然無い)

と聞いたりで実に悔しそうだ。皆さん誤乗には気をつけましょう。

木古内で誤乗の男性が降り、数人の青森のオバちゃんが乗り込み、江差線か ら海峡線へ進みだした。間もなく、いくつかのトンネルを抜け、青函トンネルの暗闇に突入した。初め て通ったときは、何の変哲もない暗闇に感動し、妻面のLED表示の自車位置表示に釘づけになった ものだが、回数を重ねるとただ眠いだけで、LED表示も「まだこんな所か」と慰め専用になってし まう。車内は大半が居眠りを始めたらしく関西から来たらしい同業者の「シンカンセン」、「セイカ ントンネル」だの「ニイハチイチ」だのの声だけが車内に響いている。「お前ら、うるさいぞ」と思 いつつ、僕もいよい睡魔に勝てなくなった。

「カァーッ」というトンネルの出口へ向かう音で目を覚ますと、パッと白い景 色が広がった。もう本州へ戻ってしまったのだ。いくつかのトンネルを抜けると、新中小国信号場 なのだろうか運転停車し貨物列車と交換した、津軽海峡線では何度も見る光景である。交換が終わる とガタゴトとポイントを渡って単線の津軽線に合流しJR東日本管内に入った。蟹田で乗務員もJR 東日本の社員と交替し運行に関する全ての業務がJR東日本の手に移った。海峡の向こうにさっきた どった渡島半島が幻のように見えている。さらば北海道!。

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