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現地五日目三月二二日 札沼線


北と南運命の境界線



  キハ53は深名線で乗り損ねていたが、実車をみて改めて驚いた。外板はくたびれて波打ち、重ね塗りの跡が毒々しい。車内に入ると、板張の床からほんのりと機械油の臭いが漂い、木目調のデッキ仕切りがキハ58ファミリーの中でも古い部類に入ることを物語っている。化粧板はほとんど色が失われるまで退色が進んでおり、赤いシートも、もはや赤ではなくなっているし、もちろん便所も期待どおりだった。

「こりゃボロいを通り越してポンコツだなぁ。」(キハ53クンごめんなさい)

と独り言を言っていると発車時刻となった。

  動きだすと意に反して力強い出足だ、やはりエンジンを二台搭載しているからだろう。力強い出足はいいのだが、エンジンは間もなく静かになってしまい、45キロくらいの亀の這うような足取りで石狩平野をたどる。そしてブレーキがこれまたまた凄く、このブレーキ調節が利くのかと思うほど強引な止まり方をする。

キハ53は長年の労働で疲れきった表情をしていた


  さて乗客のほうは僕のほかには、老人の2人連れだけである。思えば明日は北海道を後にする、北海道へ渡って五日が過ぎた、人気の少ないところを点々としてきた。長かったような短かったような不思議な気分である。ただはっきりしていることはさすがに疲れたということである。そばとパンの暮しも何日目だろう、そろそろ今晩はうまいものが食べたい。そういえば江原氏が釧網本線の列車の中で「馬券を当てた」って言ってたっけ。

「よし今晩はビール園で一杯やるぞ!」そう心に近い昼飯を我慢することにした。

  約50キロの道程を一時間二〇分かかってやっと石狩当別に到着した。ここでキハ140系の気動に乗り換える。しかし北と南でこうも違うものか、三両編成の気動車はボックス席に1〜2人ロングに数人と六割といったところである。ボックス席はすでになかったのでロング席の隅に陣取る。

  今日の午後はお天気が下り坂との事で、雲行きが怪しくなり、ぱらぱらとみぞれが降りだした。5428Dは石狩当別を後にした。雨に煙る石狩川を渡ってあいの里教育大を過ぎるといよいよ札幌のベッドタウンといった雰囲気になる。篠路で複線になり、札沼線も変わっていくのだなと痛感する。さきほどの北側は目に手を当てたくなる惨状だったが、南側は篠路までの複線化が完了し、更に一部高架化へ向けて工事が進んでいるようである。

同じ札沼線でも南半分は高架化や複線化など積極的な改良工事が行われている。
車両は50系客車改造のキハ140が電車並みの活躍をしている

やらかしました

札幌で江原氏と合流し、ビール園で一杯やることにした。しかしまたしても悲劇が降り掛かった。僕の案内でビール園だと思ったところへ徒歩で二〇分ほどかけてへ向かうとなんと「サッポロ・ファクトリー」!。思えばビール園は北口を苗穂方向だった。今いるのは南口だ。煙突だけを目印にしてきたのが失敗だった。(あとで確認したのだが「ビール園」も「ファクトリー」も全く同じタイプの煙突が建っており、ご丁寧に両方とも「サッポロビール」と書かれていた。「ファクトリー」の方はこちらも工場の跡地を利用しており、飲食・食料品・ファッション・生活雑貨・アミューズメントなどの複合施設とのことで、煉瓦造りの建物と近代的なアリトリウムがマッチした独特の雰囲気に包まれている。通りを隔てた反対側にも施設があり、そちらへはスカイウォークなるものでむすばれているらしい。女性とくるならこちらのほうが雰囲気がいいようだ。東京で言うなら恵比寿ガーデンプレイスとまったく同じ発想の施設といえよう。しかし野郎二人でくるとこれほど空しい所はない。駅を出たときからちらほらしていた雪もいよいよ激しくなり、吹雪いてきて、これは最悪。E氏も同感のようで駅ビルの「和幸」でとんかつを食べるとのことで示談が成立した。

  しかし、駅に戻ろうにも吹雪がひどくなってしまったので、歩きでは無理だと判断して、地下鉄東西線のバスセンター駅へ逃げ込んだ。切符を買おうとして券売機をみてビックリ。投入金額の表示部が、LEDではなく大昔の電気式卓上計算器にみられたもののような放電管式なのだ。出てきた切符も磁気券ではないようで、券面の凹凸で読み取る方式のようである。かねてから札幌の地下鉄の自動改札はウラ向きでは受け付けないとの話しを聞いていたので試してみると、見事にひっかかってチャイムが鳴った。券売機といい、改札機といい札幌に初めて地下鉄が開業したとき以来変わらない型のようである。しかしこんな単純な方式で不正をする者がいないのだろうか。E氏には他人のふりをされてしまったが面白い発見ができた。

  東西線で「大通」へ向かい、更に南北線に乗り換えて「さっぽろ」で下車、駅ビルの「和幸でE氏にとんかつをおごってもらい、久々にまともな夕食となった。

  道内最後の夜はまたしても<北斗22号>〜<ミッドナイト>の乗り継ぎとなり、明日は<スーパー北斗2号>の試乗で三度目の函館に舞い戻る予定だ。今回の旅行では札幌−函館間を千歳線経由で二往復半することになり、江原氏にこの話をしたところ「限りなく無駄なプランだ」とのことだったが、結果論として行程の八割強は寝ていたし、夜なので同じ景色を五回も見たという実感は感じられず、<スーパー北斗二号>で見た景色は新鮮そのものだった。しかし、とうてい一般人には理解できないプランだろう。



北斗22号で函館へ行きミッドナイトで折り返すと
札幌で宿をとるのと同じ効果を得ることが出来る。

 

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