路盤の現状は以上のとおりだが、今後の展開はどうなるのだろうか。先にも述べた通り、この路盤の処理は錦川鉄道が延長を断念した今、地元である錦町と六日市町に一任されている訳である。六日市町の方はすでに交通機関としての利用をあきらめ、用地を売却し、一部の路盤を取り壊している。今後も何らかの動きが見られそうなのは錦町側である。
錦町の企画情報課の話によると、町としての意見は何とか公共交通機関として残せないかと考えているとの事。しかし、町だけではなかなか名案が浮かばないため、1995年(平7)から1996年(平8)年にかけて地元TYSテレビ山口による地元への放送やTBSによる全国放送等で何とかこの設備を生かせないかとの意見を募集したところ、トロッコバスやサイクリングロード、果ては流れるプールなどの珍意見も出たようである。しかし、町の財政上の問題もあって、老朽化が進む、橋梁やトンネル等の改修費用の負担だけでも大変で、ただ単にバスを走らせる訳にもいかないらしい。事実トロッコバスなどとして利用するにも周辺の道路が整備されている以上、路盤を改修してまで走らせるのはどうかと思う。そういった意味で交通機関として路盤を利用するならば、赤字前提でまず採算性は度外視しなければならない。そんな体力が果たして錦町にあるだろうか。
ところで少々話はそれるが、川島令三氏の幻の「鉄路を追う」(中央書院)でもこの岩日北線計画が紹介されており、錦川鉄道から岩日北線、山口線を標準軌化してミニ新幹線気動車を走らせようという壮大な案があったが、僕はこれは受け売りの領域を出ないと思う。確かに錦町−六日市間の路盤の大部分はそのまま残っているが、南半分は第3セクターに転換され、しかも会社の存続に関わるほど経営は厳しい。しかも六日市−日原間の約56Kmは全く手付かずであり、高規格の路盤が残っているのは岩日北線計画の全72Kmうちの4分の1にも満たない16Kmである。間南は山口県、六日市より北は島根県と自治体が違いお互いの歩調は合っていない。川島氏の提唱する新岩国から東萩および津和野までの直通計画は直通の相手側の津和野と萩には六日市−日原の未着工区間に手をつけるにはあまりにも規模の足りない都市であると言わざるを得ない。むしろ九州方面からの直通の便を図って、山口線の高速化を考えた方が合理的なのである。川島氏は経営努力により黒字経営が可能とソロバンをはじいているが、僕は黒字経営は不可能と考える。山口、島根両県が出資した高速鉄道計画もまず出てこないだろう。なにはともあれ、現実的に進んでいる路盤の活用計画は錦町レベルで、「取り壊すのはもったいないから何かに使おう」という考え方のみである。
僕は実際にはサイクリングロードや遊歩道のようなような利用方法しか考見出せないと思う。錦町の駅前に町営のレンタサイクルを設け、高架部分は柵を強化(実際、柵が朽ち果てて壊れている所があった。)トンネルには照明を設ける。1km以上のトンネルで照明設備を取り付けるのが大変なら、そういったところは平行している一般道を迂回すればいい。もちろん料金を取る訳にはいかないが、下手にバス等を走らせて大赤字を出すよりかえって経済的なはずである。幸い路盤は宇佐川に沿って走っているので夏の渓谷を自転車で風を切って走ると爽快だろうし、沿線に温泉もあるので、なかなか話題性もある。全国のこのような遺構を抱える自治体の中で、「どういう利用法でも残そう」という気運が実際にあるだけでも珍しく評価できるので、町の厳しい財政事情もあるかもしれないが、せっかく作った路盤なのだから、ただ単に取り壊して売却すると安直に考えるのではなく、路盤の特性を生かした活用法を採用してもらいたい。