留萠本線栄光の日々はどこへ
深川には四時六分着、おとといの<オホーツク一〇号>よりも四〇分ほど早
い到着だ。改札を出ると駅寝をしたのか、学生風の青年が二人、ベンチで寝ている。例の東京での「サリン事件」が気になり、朝刊を手に入れるべく、駅前のコ
ンビニを探すことにした。網走でも稚内でも感じたことだが、北海道の中小都市では駅前にコンビニ
がないことが多い。もちろんコンビニ自体は町のどこかにあるとは思うのだが、どうやら北海道では
コンビニ=駅前の図式が成り立たないようである。駅前にコンビニがないということは駅利用者が少
ないことを暗に示しているようでいささかさみしい。もっとも駅前にも吉野氏が大好きな〇×商店み
たいなものはあるのだ が10時前後の開店が多く、甘くみると朝飯を買い損ねることがある。さて、
深川では意に反して駅を出ると通りの先に、ローソンの看板が見えた。しかも二四時間営業とは嬉し
い。さっそく朝刊を買おうとしたがまだラックに並んでいない。いつ入荷なのかと店員にたずねると
今日は休刊日との由。
なるほど、きのう(三月二一日)は春分の日、よって今日の朝刊は休刊か。う
かつだった。コーヒーを一本を買い、駅に戻る。留萠本線の始発まで一時間半もあるので待合室のベンチで仮眠をとることに
する。うとうとしていると先程の駅寝組が起きたらしく何やら話し声が聞こえる。じっと聞耳を立て
いると、「こいつらと んでもない奴だ」と思った。何でも今日で5日間駅寝して深名線を行ったり来
たりしているらしく、昨日は鷹泊付近を探険したとのこと、ちなみに今日は添牛内だとのことで、い
やはや世間には上手がいるものだと思いつつ、横になっていると件の深名線始発5721Dの改札が
始まったらしくホームへ向かって行ってしまった。薄目をあけてホームを見ると、どうやら今日の5
721Dはキハ54三両らしい。間もなく網走からの<オホーツク一〇号>が到着し深名線目当ての
同業者十数名が降りたようだ。皆考えていることは同じなのだなと思いつつ、再び仮眠に戻った。
五時四〇分だったか留萠本線始発の4921Dの改札が解禁?になりホーム
に入ると、北海道色のキハ40の単行ワンマンカーがエンジン音を響かせて待っていた。間もなく、
僕と、同業者らしい男性のたった二人の乗客を乗せたキハ40は静かに深川を後にした。この乗車率
と、留萠まで石狩沼田、峠下、大和田のみの停車ということを考えると、深名線始発5721D同様に
留萠側への車両の回送が目的なのだろう。石狩沼田を過ぎ、山が迫ってくる頃になると、雪が降って
きた。春分と言うもまだ北の大地は寒いようである。列車のほうは留萠側の海岸にでるべく峠越えに
かかる、エンジン変装のキハ四〇はいかに!と思ったが、変速段でフルノッチ投入にもかかわらずエ
ンジンはうなれど速度は上がらずガッカリ。詳しい性能は分からないが、キハ400の力強い走りに
はとうてい及ばないようである。どうやらサミットを越えたらしく、軽快な足取りに戻ると間もなく
その名も峠下。そして大和田に着くと、ここではじめて二人の乗車があった。
留萌本線はいまだにタブレット閉塞(留萌)
六時四七分留萠に到着するやいなや車内は通学の高校生で埋め尽くされた。
それまでの静けさがウ ソのように、黄色い声が響き、柑橘類のような独特の匂いが漂いはじめた。七
時前の登校とはいささか早い感じもするが、次の留萠発増毛行き5921Dは一二時半発と、これで
は学校に間に合うはずもない。この列車以外に選択の余地はない。いやはや、早起きご苦労様です。
増毛からのキハ54の4922Dと交換し、七時五分、高校生を乗せ乗車率90%程になって発車し
た。留萠からは乗降場から昇格した駅が1〜2キロおきに点在し、4921Dはこまめに停車する。
停車の度に高校生が大挙として乗り込んできて立席まで出たが、不思議と僕と例の同業者の男性のボ
ックスには誰も座らない。どうやら暗黙の了解のうちに席が決まっているらしく、女の子三人が「な
んでよりによって私たちの指定席にすわるのよ」といいたいのか冷たい視線でこちらを見ている。う
るさい上に禁煙車だというのに煙の臭いが。誰だと探すと高校生ではないか!。注意する気も沸かず
間もなく増毛到着となってしまった。
留萌から先は簡易乗降場タイプの駅が多い
増毛も本線の終端駅としては寂しいたたずまいだった。
増毛では高校生が降りてしまうと、単行のキハ40だけが広い構内にぽつん
ととり残されてしまった。増毛は無人駅で、昔は何本かあっただろう側線はすべて剥がされ、本線の
レールが突然途切れて車止めが置かれており、本線の終着駅としてはいささかさみしいたたずまいで
あった。一〇分ほどのインターバルで折り返した4924Dはお年寄り数名を乗せて先程来た道を戻
りはじめた。留萠で若干の乗客の入れ替えがあったが、あとは各駅数名ずつ乗せながら、九時一三分
深川に到着した。
深川からは滝川まで<スーパーホワイトアロー四号>にわずか一〇分ほど乗
車する。函館本線は岩見沢以南は普通列車もほぼパターンダイヤになっているのだが、いざ岩見沢よ
り北へ行こうとすると普通列車の本数が極端に少なくなり、移動に苦労することがある。もちろん特
急は一時間に二本の完全パターンダイヤになっているのだが、<18きっぷ>の旅では、利用できな
い。今回も普通列車だけで行こうとしたら、一一時〇六分の924Dまで待たねばならず、北海道ワ
イドのありがたさを痛 感した。
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