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現地二日目三月一九日(土) 納沙布岬−網走


 

望郷の岬


納沙布岬には三時間弱滞在の後、バスで根室に戻る。ここでY氏がまたとん でもない発言を……。

「ひとつ先のバス停まで歩く」と言い残して行ってしまった。いくら安くなる からといっても二、三 キロはあるぞと思ったら。案の定戻ってきた。「遠そうだから止めた。」彼らしい ……。

旅は人それぞれの楽しみ方があるようだ。E氏はバスが集落を通過するたび に目を光らせている。

「日本最東端の郵便局を探す」

のだという。彼の趣味は地方の郵便局のゴム印 を集める旅行貯金で、 郵便局の話となると目が少女マンガのように輝きだす(いや本当に普段の目付 きと違うのだ)。今日は果たせなかったが、きっといつの日にか貯金しに来ようと思っているのだろ う。

根室には四分程遅れて到着した。定刻でも6分の乗り換え時間なので、発車 まで二分しかない。料金箱に料金を流し込むと、ポストに絵はがきを投函、ダッシュで駅舎に飛込み 、硬券入場券を買い、焦って擦れないように慎重に駅スタンプを押す、周遊券を見せて改札を抜け列 車に飛び乗る。

「間に合った。」

接続が良すぎるのも問題だ。

釧路行は普通列車だったが、今度は鹿に悩まされることもなく快調に走って いる。雄大であるが単調な風景についウトウトしていると、後ろの方でキコキコと音がするので何か と思ったら、Y氏が缶切りでピーチの缶詰を開けて食べている。何でも渡道する途中に青森の田舎 に立ち寄ったときに、植木の剪定などの手伝いをしたら、大量に食料を貰ったとのことで、今のとこ ろ食費は一、五〇〇円しか、かかっていないと言っている。彼の旅費節約はここまで徹底していた。

川湯温泉で一休み


 釧路で網走行き4740Dに乗り換える。改札が始まっていたのか、座席は一通 り埋まっており、E氏はその状況を見るや否や、釧路市街観光をすると言い出した。Y氏も標茶 で降りて、標津線の廃 線跡を探険すると言っているし、僕も昨日は網走に半日いたので早く着いても 仕方ないと思い、川湯 温泉でゆっくり温泉に入ることにして、川湯温泉一九時一三分発の網走行4742D の車内で二人と落ち 合うことにした。

列車は釧路を出ると間もなく釧路湿原の中を走る。もちろんY氏のビデオ カメラはフル回転であ る。しかしこの日、名物のタンチョウヅルの姿は確認できなかった。(但し朝 の花咲線の厚岸付近の 湿原で一度目撃した。)釧路湿原の大パノラマをじっくり味わいたいなら、釧 路湿原駅で降りて展望 台に登ることをお薦めする。但し、釧路湿原駅は季節営業で、シーズンオフに は停車しないのでご注意を。

標茶で廃線跡探険の吉野氏が降りた後、川湯温泉には一六時三四分に到着。 川湯温泉は簡易委託駅で併設の喫茶店で切符を売っているらしいが、基本はワンマン扱いらしく運転 士に周遊券を見せて降り、改札口もなかった。ここも観光地の玄関口としてはいささか寂しく、手元 の資料では一日の平均 乗降は二四人とのこと。完全にバスやマイカーに客を取られているのだろう。 また、この駅は川湯温泉口と言ったほうが正しいようで、有名な温泉街へはさらにバスに乗らねばな らない。僕は時間が無いので駅前の公衆浴場で済ますことにする。

つつじの湯は地元の人のための公衆浴場といった雰囲気で、夕方だからなの か、結構活気がある。お湯のほうは熱めで、地元の人と話ながら浸かっていたら、あがったときに一 瞬気を失いそうなくらい血圧が下がった。

「ヤバイ旅行中の食生活が悪すぎる……。」

ここでは結構おもしろいオジさんに会って、風呂からあがってからも

「東京の方から来たのか。東京といえば、今年の出稼ぎはダマされた。暖房完 備だと飛び付いたら六 帖間に、こたつ一つで五人も押し込めやがって……。」

だの

「釧網線はダメだ、みんなクルマだよ。」

とか、話がはずんで、いつのまにか一時間半が過ぎた。

オジさんが出て行くと間もなくY氏が現われた。Y氏の入浴中、彼の荷物 を見張り、一緒に駅へ 向かうと調度、網走行き4742Dが到着した。(うーん彼といるとギリギリとか 間に合わなかったとい うネタが多いような…。まぁいい。)


川湯温泉つつじの湯は川湯温泉駅のすぐ近く。

 

夜行オホーツクで深名線へ



 4742Dの車内で予定どおりE氏と落ち合う。昨日、緑ですれ違ったとき同 様、車内は閑散として いたが、中央の向かい合わせのテーブル席に老人会の皆様が乗っており、酒宴 も盛り上がって騒がし 事と言ったら、もうたまらない。E氏とY氏は話が弾んでいるようだが、 夜で車窓も見えないこ とだし、明日に備えて、さっさと荷物をまとめて、寝てしまった。

目が覚めると斜里を出たあたりだった。E氏とY氏は相変わらず談笑し ているが、どうもE 氏の様子がおかしい。よくよく話を聞いてみれば、釧路の場外馬券売場で六千 円ほど儲けたらしく、恐いくらいに機嫌がいい。しまいには三千円くらいなら、おごってもいいから 美味いものを食べよう とまで言い出した。話し方がおかしいので「飲んでるな」とも思ったが、「お ごる」との言葉だけは忘れずに記憶しておくことにした。

Y氏はというと、この車(キハ54)のエンジン音を聴いてしきりに感動し ている。北海道のキハ 54はエンジンを換えたのか、すばらしい走りっぷりである。出発の出足もさる ことながら、ギアが変速段から直結段に変わってからの伸びがすごい。普通の気動車ならギアが変わ ると、焦れったくなるような緩やかな加速しか出来ないが。この車は、低速域からの伸びをそのまま 引き継ぐような滑らかな伸び方で、あっと言う間に80キロに達してしまう。変速時のショックが大きい など、走りに多少強引な面があるが、事、加速性能に関しては、新系列気動車と並ぶものがあると僕 は思った。

網走に着くとE氏は風呂に入りに昨日僕が立ち寄った「ホテル美園」に向 かった。僕は江原氏か ら洗濯物をあずかり「ホテル美園」に併設のコインランドリーへ。旅行時の荷 物の中で結構かさばる のが着替えのたぐいである。ズボンを一着で済まし、冬場は下着以外は2日使 ったりして軽量化する が限界はある。そこで便利なのがコインランドリーである。旅の半ばで洗濯を すれば、着替えは半分 でいいことになる。僕の場合、三日分の着替えに予備の下着一セットで間に合 った。


僕らの旅の必需品コインランドリー

 洗濯機が洗濯している間に、駅前の酒屋で明日の朝の食料を仕入れ、駅の待 合室に戻ってTVを見 て時間をつぶす。Y氏はというと、牛乳一リットルを飲み干し、パックの納 豆までナマ喰いして準備万端といった様子。

E氏も風呂から上がって来て、洗濯物が未だ仕上がっていないが、改札が 始まったので、一旦<オホーツク10号>の車内に荷物を置いてから取りに行くことにした。洗濯物を 取りに降りようとすると、Y氏が車内の洗面台でさっきの牛乳パックを切り開いて洗っている(記 念に持ち帰るのだろう か)。ところで洗濯物はというと、まだ生乾きだった。乾燥機が電気式で火力 が弱い上に、二人分入れたので、四〇分では乾燥できなかったらしい。洗濯物を二人分に分けるべき だった(最近はガス式乾燥機が普及し始めたらしく、こちらは一人分なら一〇分で乾くらしい)。生 乾きのままビニール袋
に保管するのも気持ちが悪いので、網棚の上に並べて乾かすことにした。これ も夜行で、しかも空いているから成せる業である。

網走駅で出発を待つオホーツク10号

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