サヨナラ 第2回
(二) ミキブルー
20年前、私のBF5はミキを助手席に乗せ、東京港トンネルを走っていた。当時大学2年だったか。ミキはT県のちょっとした中小とはいえ中企業の令嬢だった。ミキは飛行機でプチ帰省をするのだという。BF5は老兵とはいえ、アクセルを踏めばブッチ切れるほどの快感で、このトンネルを抜けられるのであるが、ミキが嫌がるので、仕方なく、中央車線をやや速めに流していた。 「あのう、入部したいんですけど」 むさ苦しい男どもは、突然の訪問者に、慌てて腰を上げ、椅子の埃を掃い 「どうぞ、どうぞ」 と怪しいもてなしで、浩史が部の活動内容について話を始めた。 それがミキとの出会いであった。
数ヵ月後。私は、BF5でミキのアパートへ乗りつけ、入っていった。もう、付き合い出して何ヶ月経っただろうか、悪い言い方をすれば特段、可愛い訳でもなく、田舎から出てきた少女を、私は騙すかのように半同棲生活へと誘ってしまった。 「ミキも行く?」 「うん!、行く、行く!」 屈託のない笑顔だった。 翌日、私のBF5は車庫に帰ることなく、ミキの家から直行で、助手席にミキ、後部に伸二と浩史を乗せ、K道を走っていた。 「ちょっと心臓が痛い」 いかん、いかん、ちょっと踏めばすぐにスピードが乗ってしまう。左車線に移り速度を落とす。 「俺たちだけを乗せている時は、思いっきりブッちぎっるくせに」 そう、言いたげに、ニヤニヤと目線を合わせる伸二と浩史の姿がミラー越しに見えた。若干、スローペースになりながらも、ヨコカルの有名撮影地、M山変電所跡には予定より早着した。 「わぁー綺麗」 三脚をひっぱり出し、一眼レフの調整をしている我々を尻目に、ミキはナニやら、コンパクトカメラで狙いを定めているようだった。 「ここだ!」 「バッ」 「バババ!」 一発置きピンの約束を破り、誰かが、ドライブ連写をしたようだ。 「だれだ、ドライブを切ったのは」 笑いながら浩史が言う。それくらい貧乏学生には。フィルムが貴重だったのである。
数日後。私たちは暗室で、 「チャポン、チャポン」 と不気味な音をたてながら、写真の現像とプリントを行っていた。印画紙にEF63の姿が白黒に浮かび上がってきた。当時、写真はコストパフォーマンスの安いネガフィルムで撮るか、本格的にポジフィルムで撮るかであった。 「まぁまぁかな」 満足げに写真を持ちながら、私たちは暗室から部室に戻った。部室ではミキが先日、コンパクトカメラで撮った写真がDPEから上がったらしく、それをノートに貼りながら、ペンでデコレートしていた。 「全く、女の子らしいな」 そう思いながら、見ていると、ミキから 「見て、見て、どう?」 とノートを渡され、私は言葉を失ってしまった。 「これは、一体・・・。」 それ以来、私はミキの撮る写真の虜になってしまった。 当時ミキの使っていたカメラはK社のコンパクトカメラにK社のフィルム。普通、一般的なF者のフィルムが赤の発色を得意とするのに対し、K社は青が得意で、ミキの青い空と、水々しい風景はK社製品の組み合わせによるところが多かった。そして終ぞ、ミキは一眼レフカメラを持つことなく、K社製コンパクトカメラをフィルムカメラの終焉まで使い続けた。 |
次ページ
[(三)別れ]
Thank you for your watching! |
Copyright2015 |