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サヨナラ

ムーンライト松崎

 

(一) ベイエリア


 

 私はベイエリアにいた。昼下がりから、年に一度の同窓会とは名ばかりの宴が開かれていた。もう40を過ぎるというのに20年も前の大学時代の仲間が集まり、近況を語り合っている。
  40を過ぎるとなると、ひととおり、結婚を経験し、子供をもうけ、特段、話す事といったら若干の近況と、若干の昔話。自慢じみた話にうっとおしさを感じながらも、自分も自慢じみた話をしてみたりするものだ

 ただ時代背景からか、一度も結婚したことのない者や、あえて子をもうけない者、私みたいに「X」がついている者も居る。
  長いテーブル席の私と対角の位置にミキは座っていた。本当の名前は美希子。「子」がつく名前が好きだといいながら、自分の事はミキと呼んでほしいらしい。
  楽しそうに子供とじゃれあうミキに少しのうっとおしさを感じながらも、それを打ち消すように、私は隣の伸二や浩史とじゃれあっていた。全く、私は結婚というものを2回もしておきながら、子供も居るといのに、ミキの一挙一投足にため息が出そうになるなんて、本当に馬鹿げている。
  宴も終わり、皆、帰途につくことになった。こんな間昼間から宴が行われているのも、同窓会と名のつくものが、多方面に散り散りになった仲間を集めるからであった。
私は伸二と車で来ていた。車で来ていたからには、酒を飲める訳もなく、そんな私を気遣ってか、伸二も酒を飲まずに居た。

 

 


店の外に出ると心地よい風が吹いている。都会であっても海辺。こういうのをベイエリアというのか。
バスがないから、K線の駅まで歩くという、ミキと浩史たちを見送り、私は岸壁に係留されていた古船が気になったので、スマホをああでもない、こうでもないと、いじりながら苦戦しつつ、被写体として収めていた。

「センパーイ、行きませんかぁー?」

おどけた表情で伸二が私のVM4の横で呼ぶ。

「ははは」

「やれやれ」

が混ざったような表情で、私はVM4まで戻り、ハッチを開けた、そこには私と伸二の撮影機材が所狭しと置かれていた。
  そう、ここへ来る前、早朝に約50km離れた東北本線の撮影地で列車撮影をしてから、ここへ来ていたのであった。いい歳をこいて、仲間からは呆れられているだろうに。
  荷物の整理をし、運転席に座ると、私はVM4のエンジンスタートボタンを押し、そこを離れた。開け放たれた窓から、初秋の爽やかな風が入ってくる。
  北海道から来ている伸二は、これから、この足で札幌へ帰る。私は羽田まで送る約束であった。

「そこを右に曲がってください」

 伸二が言う。さすがだ。ナビどうりの走行に慣れてしまった私と違って、測量技士をしている伸二は一度通った道は忘れないらしい。
  ベイエリアの40ft海上コンテナトレーラーでも悠々と曲がれるような巨大な交差点を右折すると、片側だけで4車線ある道に出る。中央分離帯を隔て向こうの道の歩道を、ミキたちが歩いているのに追いついた。私はクラクションを2、3回鳴らし、窓から手を出し、大きく振った。アホな浩史が、おどけたしぐさで大きく手を振っているのがチラリと見えた。ミキはすまして、子供の手を引いているようだ。
  エアコンを入れ、窓を閉めた。静かになった空間に

「ふぅぅ」

と思わず。私の溜め息が響いてしまったが、伸二は気づかないふりをしているのだろうか。
  VM4はT道に入り、首都高Bラインへと足をすすめる。レインボーブリッジが右へ去り、東京港トンネルの3連信号が見える所で

「ふぅぅ」

とまた、深く溜め息をついてしまった。さすがに伸二が

「どうかしたのですか。」

と訊ねる。

「いいや」

と短く答えただけで、VM4は、片側3車線の東京港トンネルのいちばん左の車線を法定速度で走っていた。

 

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係ありません。

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(二) ミキブルー

(三)別れ

(四)再会

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