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サヨナラ 第4回 


(四)再会


 

 

 

 

 

まさかこんなことが起ろうとは。
それは一通のメールであった。

「ねぇ、北海道、行かない?」

 ミキからであった。恋人同士としてではなく、単なる同行人として来てもらいたいそうなのである。私はなんとも複雑な気持ちであったが承諾する事にした。ミキはBG5は嫌だろうし、すでに郷里のT県に帰っていたミキとは現地、新千歳空港で待ち合わせる事にした。

 

 

 いつだったか8月。私は当時、まだあった747で新千歳に入った。爽やかな晴天、青空。ミキの乗る飛行機の到着まで、小一時間あった。私はデッキに立ってみた。ミキはT空港からの直行便で来るはずである。747や767といった大型機が飛び交う中、ミキを乗せていると思われる、ショートボディの737が着陸した。と同時に、隣の航空自衛隊千歳基地から2機のF15が轟音と共に離陸していった。
  到着ゲートへ降りると、ニコやかな表情でミキが降りてきた。

「私の飛行機、小さかったでしょ。」

「それから、戦闘機が2機、飛んでいったでしょ。あれ見てたんでしょ。」

 見透かしたかのように言うミキの言葉にこの子は私の何もかもまだ知っているのだろうかと、のっけから複雑な気持ちになった。その日は空港からレンタカー屋のマイクロバスに乗り、レンタカープールに行き、レンタカーを借りた。そして、長沼の温泉で一風呂浴びて、泊まる事もなく、北海道のグランドツーリングが始まった。
  どう走ったかはよく覚えていない。しかし、十勝からオホーツクへ抜け、富良野に至ったのは覚えている。天地天命に誓うが、私はこの旅で、ちょっとした事でよろけたミキの手をとった事はあるが、ミキには一切手を出していない。そんな不思議な関係がなおさら、私の胸を深くえぐった。

 そして持っていったカメラ、もはやデジタルカメラの時代。K社はすでになくなりKM社と名前を変えていた。私は未練がましくKM社製のデジタルカメラを使用していたが、このカメラがいい働きをしてくれた。ミキとの再会を待っていたかのように私のカメラのファインダーにミキブルーを再現してくれた。この時、ミキが何を撮ったかは私の知るところではない、カメラはS社のものに変わっていたが撮影データの内容をいちいち聞いてみるような事はない。つまりそういう関係なのであるが、それが、もう私とミキがもう恋人同士ではないのであるという事を示す事実であった。

 旅の最後に私は札幌で測量技士をしている伸二の会社の保養施設に泊めさせてもらう事にした。あらかじめ話をしておいたとは言え、突然現れた、不思議な関係の二人に、伸二は目をパチクリさせているようだった。夜、施設の大浴場で私と二人きりになった時、伸二は

「美希子さんとはまだ付き合っているんですか」

と聞いてきた。

「そんな事はないよ、ただの運転手さ」

と答えたが

「そうですかぁ」

と薄ら笑いを浮かべる伸二に

「そう見えるかなぁ」

とだけ答えた。

 次の日、伸二に礼を言い、新千歳までの僅かな道のりを走り、レンタカーを返し、空港へ向かった。往路とはちがい、帰路は羽田経由だというミキとは飛行機の席が隣同士だった。機中、色々な事が思い出された、そして、これが、何とも残酷な旅であったか。なぜ耐えたのか。自分でも分からない。答えの出ぬまま、747は羽田に着陸した。飛行機から降り、ボーディングブリッジを渡り、長い長い通路を二人無言で歩いた。せめて、この通路がもっと延々と続いてくれないかと思ったが、乗継ゲートへ向かうミキと、到着ゲートへ向かう私との分岐点が来てしまった。
 
ミキは表情を変えずに、また明日、会うときのように

「サヨナラ」

とだけ言った。
  そして、振り返って乗継ゲートの方へ向かうと、後ろ手に手を二、三回振った。私も手を上げかけたが、彼女にはもう見えない。

これが本当の「サヨナラ」なのだと。何となく分かった。

 デッキに出てみた。機数が多すぎて、どれがミキの乗る飛行機か分からない。ただ、出発時刻。それらしい、A社の青い尾翼の767が飛び立っていくのが見えた。

「サヨナラ、ミキ、楽しかった、有難う」

 

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係ありません。

 

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